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新潟家庭裁判所 昭和36年(家)3874号 審判 1966年6月09日

申立人 藤山二郎(仮名)

相手方 藤山一男(仮名) 外一名

被相続人 亡藤山源助(仮名)

主文

一  被相続人藤山源助の遺産である別紙物件目録記載の(一)家屋および(二)農地は相手方藤山一男の所有とし、昭和三六年五月一一日に開始した相続を原因とする所有権移転登記手続をすること。

二  相手方藤山一男は、

(イ)  申立人に対し金六七万六、五七〇円およびこれに対する本審判確定の翌日から年五分の割合による金員を、

(ロ)  相手方田中友子に対し金四五万五、六五七円およびこれに対する本審判確定の翌日から年五分の割合による金員を

それぞれ支払うこと。

理由

(一)  相続人および相続分

被相続人藤山源吉は昭和三六年五月一一日本籍地において死亡し、相続が開始した。その相続人は申立人および相手方らであつて、いずれも被相続人の子である。以上は戸籍謄本の記載により明らかである。従つて、法定相続分は申立人および相手方ら相等しくいずれも三分の一であるところ、相手方田中友子は相手方藤山一男に対し、自己の法定相続分の二分の一を贈与していることが贈与証書により認められるから、結局相続分は、申立人が三分の一、相手方藤山一男が二分の一(すなわち、1/3+1/3×1/2 = 1/2)、相手方田中友子が六分の一(すなわち、1/3×1/2 = 1/6)

ということになる。

(二)  遺産の範囲およびその価格

(1)  遺産は別紙物件目録のとおりであるが、そのうち(一)家屋については現存する(1)居宅(2)倉庫(3)堆肥舎が遺産であり、登記簿上の納屋・鶏舎・物置は滅失して現存しない。現存する畜舎および納屋は相手方藤山一男が自費で建設したものであつて、同人の所有に属するというべく、従つて遺産には含まれない。以上の点は、調査官の調査報告書および相手方藤山一男の陳述によりこれを認めることができ、申立人の陳述は右証拠に対比するときにわかに採用し難い。

(2)  農地については別紙物件目録(二)記載のとおりであつて、白根市大字○○○字○○六六四一、字○○七三八四一、七三八四-二、七三八四-三の畑および雑種地は存在しないし、また同市大字○○○字○○一〇二九-四以下七筆の畑はいずれも被相続人の生前において第三者に売却済のもので遺産の範囲には含まれない。以上の点は調査官の調査報告書および当事者の陳述によりこれを認めることができる。

(3)  別紙物件目録(三)記載の宅地九九〇坪は被相続人の死亡直前である昭和三六年五月五日に被相続人より相手方へ贈与されたことが登記簿謄本により認めることができる。そうすると、物件の性質上および贈与の時期からみて当然生計の資本として贈与されたと推認し得るから、右宅地は本件相続財産とみなさるべきである。また同目録(四)の立木は右宅地の定著物として同様の取扱いをうけるべきである。

(4)  調査官の報告書および当事者の陳述によると、昭和二二年五月頃および昭和二八年一〇月頃の二回にわたり、被相続人から申立人に対し五万円宛交付されていることが認められるが、右金員については、当事者の陳述によると、申立人が右各金員を受けとつた当時の事情からみて、いずれも被相続人が生計の資本として贈与したものと推認し得るから、右金員は本件相続財産とみなさるべきである。

ところで、右生前贈与された金員について、受贈時の金額を以て相続財産に組入れるべきだとの考え方もあるが、貨幣価値の変動の激しい今日においてそのような取扱いをすることは相続人間に著しい不公平を招来することになるし、抑々右金員の贈与は被相続人と受贈者との間の関係であり、相続人間の取引ではないのであるから、遺産分割においてはできる限り相続人間の公平をはかるべきだとの見地に立脚するならば、現金についても物価指数の変動に応じて相続開始時の価額を算出するのが法の趣旨にそうものと考える。

そうだとすると、受贈時および相続開始時の物価指数に則り、申立人が贈与を受けた金員の相続開始当時における評価額は別紙物件目録(五)記載のとおりである。

(6)  以上のような次第で、被相続人の相続財産の価格は、合計一五六万二、〇〇〇円であるが、前記の生前贈与された財産の価格を加えると、結局本件において相続財産とされるものの価格は二七三万三、九四五円となる。

(7)  なお本件遺産中、相続開始当時の動産については、記録中の和解調書記載のとおり分割ならびに相互に引渡を終了したことが認められるから、本件遺産分割の対象とならないことは明らかである。

(三)  各相続分の価格

(1)  前記のとおり本件遺産の価格は二七三万三、九四五円であるから、これを前記各相続分に分けると、まず相手方田中友子については、

2733,945×1/3×1/2 = 455,657(円)(円未満切捨)

となる。

(2)  ところで、申立人は前記のとおり被相続人より生前贈与として二三万四、七四五円(現金評価額)を受けているから、それを差引くと、

2733,945×1/3-234,745 = 676,570(円)

が申立人の取得すべき具体的相続分となる。

(3)  次に、相手方藤山一男については、被相続人より前記のとおり生前贈与として評価額九三万七、二〇〇円の不動産を譲受けているから、これを差引くと、

2733,945×1/2-937,200 = 429,772(円)(円未満切捨)

が相手方藤山一男の取得すべき具体的相続分となる。

(四)  各相続人の生活状態およびその他の事情

当事者の陳述および本件記録によれば次の事実を認めることができる。

(1)  申立人は、昭和二二年五月結婚して以来俸給生活を続けており、現在は三条市内の住居から燕市の○○製作所に通勤し、プラスチック洋食器の研磨工として働いており、月収の手取は約三万円から四万円位(出来高払制)である。同人は本件遺産中の農地(物件目録第一の(三)農地のうち番号七ないし一四)を希望しているけれども、これは将来洋食器の研磨下請を経営するにあたり、その工場敷地として入用なのと、傍ら農業を兼業としたいからというのがその理由である。

(2)  相手方藤山一男は、現在遺産である本件家屋に居住し、被相続人の長男として早くから家業である農業に従事し、現在も相続財産である本件田畑全部を耕作しており、一方宅地内に豚舎を設置して養豚業を営んでいる。収入として年間平均約二二万円位取得しているが、事業は殆んど借入金によつて持続している状態である。従つて現在耕作している田畑をそのまま耕作できるような方法で遺産を分割してもらいたいというのが同人の希望である。

(3)  相手方田中友子は、昭和三〇年一〇月一四日田中吉郎に嫁し、同人と共に酒類の小売販売業を経営し、生活は安定している。同女は本件遺産に関しては現物をもらいたいという意思をもつているわけではなく、現金で相続分相当額を得ればそれにこしたことはないが、期待はしていない。ただ被相続人に預けておいた現金約二〇万円が相続開始後行方不明になつたので、それが手元に戻つてきさえすれば満足するという意向である。

(五)  分割方法

よつて以下本件遺産の分割方法を検討するに、前述のように相手方田中友子は、現物取得を期待しているわけではないから、帰するところ、問題は申立人と相手方藤山一男との間で本件遺産をどのように分割するかにある。

ところで、相手方藤山一男は、同人が現在耕作する農地(すなわち本件相続財産である農地の全部)は生活の基礎であるから、これをそのまま維持していたいという希望をもつているのであるが、一方申立人も前述のように右農地の大半を取得したいと望んでおり、意見は真向から対立している。

しかしながら、前述の当事者の事情を検討するに、申立人が、右農地を希望する理由として、農地を洋食器の研磨下請業の工場敷地に利用し、かつ、附随的に農業を経営したいと主張するのであるけれども、これは農地自体の利用に主眼があるのでなく、要するに同人の計画する事業の資金源としてこれを欲しているにすぎないと考えられ、相手方藤山一男の本件遺産である農地に対する必要性に比べ格段に低いものと認めざるを得ないのである。

したがつて以上の事情を総合して、本件の遺産である農地および居宅は全部相手方藤山一男の所有とし、その代り、家事審判規則第一〇九条により、相手方藤山一男をして申立人および相手方田中友子に対し金銭債務を負担させるのが相当であると認める。すなわち、相手方藤山一男は相手方田中友子に対してその具体的相続分である金四五万五、六五七円およびこれに対する本審判確定の翌日から年五分の割合による金員を、また申立人に対してはその具体的相続分六七万六、五七〇円およびこれに対する本審判確定の翌日から年五分の割合による金員をそれぞれ支払うべきである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 山下薫)

(別紙)

物件目録(遺産の範囲)

(一) 家屋(新潟県白根市大字○○○一八五〇番地所在)

家屋番号一六六

(1) 居宅 木造、板葺、二階建一棟

一階 一三六・二三平方米(四六坪二一)

二階 五七・八五平方米(一七坪五〇)

評価額四〇〇、〇〇〇円

(2) 倉庫 土蔵造瓦葺二階建一棟

一階 三四・七一平方米(一〇坪五〇)

二階 二三・六〇平方米(七坪一四)

評価額九三、〇〇〇円

(3) 堆肥舎 木造木皮葺平家建一棟

二八・九二平方米(八坪七五)

評価額一〇、〇〇〇円

合計五〇三、〇〇〇円

(二) 農地(同県白根市大字○○○字○○所在)

地番  地目(現況)   地積平方米(歩)    評価額(円)

一  一〇二四-一 田(田)  四九九、一七(五畝〇一)    九〇、六〇〇

二  一〇三〇-五 田(田)    九、九一(三)            〇

三  一〇三四-一 田(田)  四一六、五二(四畝〇六)    七五、六〇〇

四  一〇二四-二 畑(畑)  二五一、二三(二畝一六)    三八、〇〇〇

五  一〇二五-一 畑(田)  二一四、八七(二畝〇五)    三九、〇〇〇

六  一〇二五-二 畑(田)   六九、四二(二一)      一二、六〇〇

七  一〇二六   畑(田) 一〇八四、二九(一反二八)   一九六、八〇〇

八  一〇二七-一 畑(田)  六七一、〇七(六畝二三)   一二一、八〇〇

九  一〇二七-二 畑(田)  一六八、五九(一畝二一)    三〇、六〇〇

一〇 一〇二七-三 畑(田)  三五〇、四一(三畝二六)    六九、六〇〇

一一 一〇二八-一 畑(田)  一三二、二三(一畝一〇)    二四、〇〇〇

一二 一〇二八-二 畑(田)  一九一、七三(一畝二八)    三四、八〇〇

一三 一〇二八-三 畑(田)  四七六、〇三(四畝二四)    八六、四〇〇

一四 一〇二八-四 畑(田)  三八六、七七(三畝二七)    七〇、二〇〇

一五 一〇三四-二 畑(畑) 一一一七、三五(一反一畝〇八) 一六九、〇〇〇

合計 一、〇五九、〇〇〇

(三) 宅地(同上所一八五〇番地所在)

九九〇坪現況(1)宅地

二一四八・七六平方米(六五〇坪)

評価額(円) 六五〇、〇〇〇

現況(2)雑地

一三二・二三平方米(四〇坪)

評価額(円) 三二、〇〇〇

現況(3)田畑

九九一・七三平方米(三〇〇坪)

評価額(円) 一八〇、〇〇〇

合計 八六二、〇〇〇円

(四) 立木(同県白根市大字○○○一八五〇番地所在)

種類 評価額(円) 種類 評価額(円) 種類 評価額(円)

欅一本 八、〇〇〇 松一本 一四、四〇〇 欅一本 八、〇〇〇

松一本 四、八〇〇 欅一本 八、〇〇〇 杉一本 一七、〇〇〇

欅一本 二、〇〇〇 もみ一本 五、〇〇〇 欅一本 八、〇〇〇

合計 七五、二〇〇円

上記(一)、(二)、(三)、(四)の各物件の評価額は、鑑定の結果によるもので、相続開始時を基準とする。

(五) 被相続人から申立人へ生前贈与した金員

(1) 昭和二二年五月頃……五〇、〇〇〇円

50,000円×105.3/30.1 = 174,916(円)……相続開始時における評価額

(2) 昭和二八年一〇月頃……五〇、〇〇〇円

50,000円×105.3/88 = 59,829(円)……相続開始時における評価額

(但し全都市における消費者物価指数、昭和三五年を一〇〇として、同二二年三〇・一、同二八年八八・〇、同三六年一〇五・三、総理府統計局「家計調査年報」および「消費者物価指数報告」による)

合計 二三四、七四五円

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